複数のデザイン案をどう検討して何を選ぶ?

複数のデザイン案をどう検討して何を選ぶ?

「良いデザイン」の定義はさまざま、求めるべきは「適切なデザイン」

オリエンテーションの後、デザイナーからのプレゼンテーションでは、複数のデザイン案が提案されることが多いと思います。

この「デザイン案の検討」がけっこうなクセモノ。

せっかくの「ベスト案」があるのに、検討の視点が不足していたり、本来の狙いを忘れてしまっていたり・・・。

実際、「結果が伴わなかった」というご相談の時に初回提案時のデザイン案のすべてを見せてもらうと、一見しただけで(こっち!)と思えるデザイン案が含まれているケースが多いものです。

ここで「デザイン案検討の観点」をまとめてみます。

1:「良いデザイン」という言葉が判断を迷わせる

デザインを検討する際、発注主一人の考えで決定するケースは少ないでしょう。自分の意見は持ちながらも、社員や懇意な取引先、家族などの意見も聞いた上で決定されることが多いものです。

周囲の人にデザイン案への意見を求めた時、しばしば使われる言葉の一つに「良いデザイン」というものがあります。

「これ、良いデザインだね」。この「良いデザイン」という言葉、立場によって指し示す意味がまったく変わってくるから要注意。その意味の違いがデザイン案の決定を惑わせるのです。

その原因を探っていくと、「良い/悪い」という言葉には概ね5つの意味が含まれていることがわかりました。

「良い/悪い」
→「好き/嫌い」
→「上手/下手」
→「安心/不安」
→「おもしろい/おもしろくない」
→「適/不適」

2:「良いデザイン」「悪いデザイン」の5つの意味

5つの「良い/悪い」について説明します。

◯「好き/嫌い」
発注主の経営層や、関係者のうちアートやデザインに興味ある方が使われることが多い言葉です。自分の感性に合っている合っていないという観点でのデザイン評価です。

◯「上手/下手」
デザイナーが他のデザイナーのデザイン案を見て使うことが多い言葉です。デザイナーとしての技量、デザイン技術、デザインアイデア・着想などのレベルが高い、もしくは仕上げきっているという意味をもっています。

◯「安心/不安」
発注主の現場サイド、製造や営業、店舗の責任者や担当者から聞く言葉です。突拍子もないデザインだからどういう反応があるか不安、取引先や関係者が安心しそう、自分は説明できるかな・・・そういう当事者としての具体的な心配事から発生するコメントです。

◯「おもしろい/おもしろくない」
広告代理店や広告畑の仕事が多い人が使う言葉です。見たことがない、切り口がユニーク、オリジナリティがある、ここでこう来たか!そんな意味を内包しています。

◯「適/不適」
・・・・・・これは弊社で使う言葉、外部では耳にしたことがありません。

3:デザイン案の検討がなぜ失敗するのか

つまり、同じ「良いデザイン」という言葉を使っても、意味することは千差万別。その意味を取り違えると、ベストデザインを見逃してしまうという、非常に残念な事態になってしまいます。

そもそも一人の独善的な見方に偏らないように周囲の意見を求めたのに、「良いデザイン」の意味の違いに気づくことができなければ、デザイン案の検討自体が機能不全に・・・。

「声の大きな人の一声で決まってしまった 」の背景には、この「検討プロセスの機能不全」が理由として存在しているのです。

デザイナ—が適切なデザイン案を提案していても、発注主がそれを正しく評価し選択できなければ、デザインの効果を味方につけることはできません。

本来投資であるべきデザイン費は無駄なコストと化し、時間的なロスも発生します。

4:第一印象は非常に大切。その次は「適/不適」検討。

それでは、検討プロセスの一つのモデルを紹介します。案件により場により条件により検討要素を増減したり、順番を入れ替えたりしながら使ってみてください。

この時のポイントは「適/不適」判断だけは必ず発注主が行うこと。「適/不適」とは、要はオリエンテーション時に伝えた諸条件がクリアできているかどうか、ということです。

いくら「好き」で「上手」なデザインでも「不適」なものを選んではいけません。「適」であることは、最低条件なのです。できれば「適」をクリアした上で、「好き」で「上手」で「おもしろい」ものだったりしたら最高ですね!

(1)発注主として、まずは自分だけの考えを検討する
・第一印象でのマイベストデザイン案
・第一印象の理由
・オリエンテーション・シートの諸条件検討・・・「適/不適」判断

(2)周囲の方々に意見を聞く
・第一印象でその人ごとのベストデザイン案
・無責任な一般市民としての意見、感想
・その人の「良いデザイン」がどの観点に立っているか検証

(3)(1)の自分案に対し(2)の周囲案を突き合わせて、総合的な観点から検討
・総合的なベストデザイン案
・その案を選んだ理由
・調整や修正が必要な点のメモ

(4)デザイナーの意見を聞く
・デザイナーのベストデザイン案
・その理由

(5)(3)の検討結果をデザイナーに伝え2者で検討

5:成果につながるデザインを生む発注主とデザイナーのチームワーク

デザイン開発が目的をもったプロジェクトの一部である以上、さまざまな人が関わることになります。

デザイナーからのデザイン提案に対し、プロジェクトの目的や目標からの検討、バイヤーとの交渉という視点、商品・店舗・サービス開発コンセプトとの照合など、専門性をもったメンバーによる検討が必要であり、ゴールを見据えて一貫性に留意し、デザイン開発を行うプロセスが必要となります。

デザイナーと適切な協働ができることや、デザイン案を適切に評価できることは、顧客体験を向上させたい企業、コミュニケーションカを強化したい企業にとって、重要な強みであり、ノウハウとなっています。

デザインの効果を上手にビジネスに取り込んでいる会社には、たいてい継続的に関わっているデザイナーの存在があるものです。

6:「デザインはわからない」、デザイナーに丸投げしても大丈夫?

「センスがないからデザインのことはわからない」とデザイナーにすべてを委ねるケースがあります。

いわゆる「丸投げ」です。

デザイン技術・方法はデザイナーが熟知していますので任せればよいのですが、事業戦略やお客様、売り場についてはもちろん発注主の領分。丸投げが悪いとは言いませんが、成果を上げる確率には影響を与えるでしょう。

「デザインはセンスではなく戦略だ」という観点に立ち、デザイナーとの協働ですばらしいデザイン開発を続けている経営者もいます。

また「センスがないのは経験が少ないから」という話もあります。経験を重ねていけば、経営者・商品開発者・営業担当者など各立場・視点からのデザインとの関わり方、判断の仕方がわかるようになります。

7:デザイナーへのフィードバックで気をつけたいこと。

発注主としては、企業や商品・サービス、店舗の良さや特徴について、アレも言いたいコレも言いたいという気持ちになるものです。

しかし表現できるスペースは限られており、何よりたくさん語ると焦点がぼやけ、伝わりにくくなります。

そこでデザイナーやコピーライターなどクリエイティブ・スタッフの出番です。

客観的な立場から何を中心に伝えるべきか、優先順位が高いこと・低いことは何か。情報を整理し、軽重をつけ、伝え方の検討を経てクリエイティブを作り上げます。

多くを語ると何も伝わらないもの。
伝えるべき大切なことをしっかり議論しましょう。

執筆者 中島 秋津子

執筆者中島 秋津子

◯会社と地域の“伝える”専門デザイン会社・株式会社STUDIO Kの代表取締役。

◯自身のベースはマーケティング。20年以上にわたる幅広いジャンル*でのデザイン開発と、2000社の“伝わらない”というリアルなコミュニケーション課題に取り組んできた経験を持つ。

◯中小企業や小規模事業者の「伝える力」強化による経営・事業インパクト創出、販路拡大を得意とし、セミナーなど講演経験多数。

※幅広いジャンル*=グラフィック、プロダクト、WEB、アパレル、雑貨等

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