
皆さんは、商品デザインや企業ロゴを新たに作ったりリニューアルしたりする際に、どのような点を重視しますか?
今回は、STUDIO Kのデザイナー・和田幸江へのインタビューを通して、デザインの役割、デザインができるまでの過程を特集します。
1.デザインの依頼から完成までのプロセス

Q:どんな依頼が多いですか?
大きく分けると2つです。新しい商品ができるので、とか新しいお店をやるからそのロゴマークを作りたい、つまり新しいものだから必要という依頼。
もう一つは、この商品の売り上げを伸ばしたい、県外に販路を広げたいなど、既存のものを変えるタイミングでご依頼いただく場合です。
ご自分たちでつくったけど、「なんか違う」と思ってらっしゃったり、「物はあるけど、どう売り込んでいいか分からない」という課題だったり、そういうご相談を頂くこともありますね。
Q:デザインの依頼から完成までのプロセスについて教えてください。
まずヒアリングを行い、お客様の抱える問題や目的を明確にします。質問事項を事前に準備し、聞きながら必要な情報を集めていきます。
パッケージデザインの場合は、商品名、価格、ターゲット層、売り場、保存方法、形状、商品の位置付けなどの基本情報を最初に伺います。
Q:商品の内容が変わることもありますか?
例えば、サイズ・内容量、小さなパッケージのほうが好まれることもあるんです。
長年販売され、すでに顧客がついている商品のリニューアルだと、大きくデザインを変えることで顧客が混乱する可能性があるんです。そういうケースでは、これまでの雰囲気を維持しながら印象を強くできるよう工夫します。
商品のパッケージもフィルムや紙、シールなど様々な素材があり、製造過程やコストにも関わります。だからこそ、ご依頼主としっかり対話をして方向性を決めていきます。
Q:ご依頼主と対話を重視している理由を教えてください。
対話をすることで本当に必要なものが分かるんです。
街の飲食店からご相談を頂いたことがありました。最初は「物産館で販売する商品のパッケージを変えて、売り上げを伸ばしたい」というご相談でした。
でも、お話しを聞かせて頂くうちに、もっとお店にいろんな年代のお客さんに来てもらいたいという課題が見えてきました。
そこで、店舗の顔「のれん」を変え、そこに新しく作ったロゴマークを入れることになりました。店の入り口の雰囲気が変わり新しいお客も増え、物産館での売り上げも伸びたそうです。相談と対話から必要なものが見えたケースです。
2.デザインにおける様々な要素

Q:これまでも様々なデザインを手がけてきたとのことですが、具体的にどのようなものがありますか?
会社や商品のロゴ、ブランドイメージ、商品パッケージ、パンフレット、メニューなどです。アロハシャツやワイナリーのマークなどもデザインしました。
ロゴだけのご相談から、名刺やツール、ショップツールへと広がることもあります。
お客様と話し合いながら、何が面白いか、何が効果的かを一緒に考えていきます。食べるものならまず「美味しそうに見える」ことを大切にします。
Q:「美味しそうに見える」ひとことで言っても伝え方はいろいろですよね。どういうことでしょうか?
うーん…。難しい質問ですが、「美味しそう」とは、鮮度感とは違う、「生きている感じ」かもしれません。フレッシュというよりは、魂が宿っているような感覚です。パッケージであれば、色合い、写真、フォントなどが組み合わさって生まれます。
中身が見えるパッケージであれば、素材の色合いが直接的に『美味しそう』を伝えることができますし、そうでない場合は、写真やイラスト、キャッチコピーで、食べる人の期待感を高めることが重要だと考えています。
もしかしたら、『美味しそう』とは、お客様の期待感をどれだけ引き出せるかということなのかもしれませんね。それをお客様と一緒に考えていくのがデザインの過程です。
Q:フォント(文字の種類)の選択はどのように行っていますか?
商品やターゲット層、ブランドイメージに合わせて選択します。
例えば、若い層をターゲットとする場合は現代的なフォント、伝統的な商品であれば古典的なフォントを使用するなどです。
私の手書きの筆文字でオリジナリティを出す場合もあります。
3.依頼主への訪問と現場主義

Q:依頼先を訪問するのはどのような時ですか?
基本的には、依頼を受けた際に一度伺います。その後、必要に応じて再度訪問します。
ロゴデザインであれば会社の中を見せてもらい、パッケージデザインであれば製造現場を見せてもらいます。
Q:依頼先の会社を訪問する際、どのような点に注目しますか?
社長室の装飾、受賞歴、過去の商品、会社の周りの環境などです。例えば、会社の入り口に大きな木があるなど、イメージにつながるものにも注目します。
そういうものがデザインの原型になったり、方向性につながったりします。過去の商品ロゴもあれば必ずチェックします。
Q:過去のロゴなどを大切にされるのはなぜですか?
歴史のある会社には、長年のお客様がついていることが多いです。
昔のロゴには、会社の歴史や地域との繋がり、企業のアイデンティティが詰まっている可能性があります。
それを無視して新しいものにしてしまうと、顧客が混乱したり、信頼感を損なってしまう可能性があります。
ある依頼主から「会社のロゴマークを新しくしたい」というご相談がありました。
その依頼主は地域で長年業務を続けている会社でしたが、会社や関連企業、車両や制服などに使っているマークが、太さや角度など、意図せずちょっとずつ違うデザインになっていました。
ただし、従業員や地域の方にはそのマークが浸透していることがわかったので、刷新して全く別ものにするのではなく、既存のマークを採集して分析し、太さや角度を調整して新しいロゴデザインとして提案し、ご決定いただきました。
Q:現場主義ということだと、商品がならぶ店舗も現場ととらえているそうですね。
はい。その商品が並ぶ売り場を見に行くことで、どんな場所にある棚か、どんな商品があるのか、どんなお客様かが分かります。
売り場にはたくさんのヒントがあるので、依頼主と見に行くこともあります。
4.デザインで大切にしていること

Q:デザインとは、和田さんにとってどのようなものですか?
デザインとは「設計」だと考えています。アートは自己表現ですが、デザインは常に相手、発注者や商品を手に取るお客様がいるものです。
自由ではありますが、完全に自由ではなく、ルールや時には制約の中で目的を達成するための手段です。発注者の問題解決や目的達成のための手段としてデザインを捉えています。
Q:デザイナーとして最も大切にしていることは何ですか?
お客様の話をよく聞き、現場を見に行くことです。これらを通して、嘘のない誠実なデザインを提供したいと考えています。特に食品に関わるデザインでは、人の口に入るものなので、過剰な表現は避け、正直に商品の魅力を伝えます。
今の仕事の前に観光雑誌の編集をしていて、県内全域にいろいろ行けたので、それがけっこう役に立っています。この辺にどんな食べ物があるとか、大隅や奄美のほうはこんな特産品があるとか。
奄美と屋久島の森は、言葉では同じ緑色でも、実際の色は全然違うんです。海の青も。
そういう県内各地の「色」を知っているのは、各地の特産品などのデザインをする上で大きな武器になることがあります。
5.さいごに
Q:デザインの依頼を検討している方へのメッセージをお願いします。

デザインは、単なる見た目だけでありません。商品を手に取る客への訴求、販売場所、そして企業の歴史や背景までを反映した経営資産のひとつです。
悩んでいるなら、話だけでもしてみませんか?話すことで何かが見えてくるかもしれません。もし一緒に何か作りたいと思っていただけたら、お声がけください。