デザインが納品されてからが事業の始まり
デザインを納品するとデザイナーは一段落・・・ではありますが、ビジネス的・事業的にはそれがスタート。
今から商談が始まる、新商品を展示会でお披露目する、新店舗が開業する、会社の50周年を機会に取引先との関係を深める・・・ある意味、デザインが納品された時というのは「いよいよ本番」「いよいよスタート」のタイミングなのです。
デザインは理念、価値、戦略そのものですからデザインへの評価=取り組みの成果そのもの、なのです。
1:デザインを評価する理由
デザインは様々な人の行動に影響を与えます。
モノの色や形が光という形の刺激として目の中に入り、網膜上に画像として映し出され、その画像としての情報が脳に伝達されることで認識され、その後さまざまな情報判断や行動というその後のプロセスに影響を与えます。
そのような流れでデザインは人々の行動に影響を与えます。「視覚的に届ける情報の総体」を「目的にかなう最上の状態で視覚を組み立てること=デザイン」という言い方もできるかもしれません。
デザインの反応として引き起こされる行動が、望むものかそうではないのか。もしも現在のデザインに課題を感じるのであれば、デザインの何が良くて何が課題なのかというデザインを評価することが必要になります。
デザインを評価するという観点でみることは、戦略的なデザイン開発につながります。デザインの評価を定例化すれば、デザイン活用ノウハウが高まり、デザイン効果も高まります。「デザインはよくわからないから任せるわ」という、デザイン丸投げもなくなります。
より良いデザインで望む反応に近づくために、デザインを評価することやデザインを評価する指標をもつことは、とても重要で戦略的なアプローチなのです。
2:デザインを評価するタイミング
「デザインを評価する」というと、デザインが終わって世の中にリリースした後=デザイン後のように感じるかもしれません。
しかし実際には「デザインの前」と「デザインの真っただ中」、そして「デザインの後」という3回のタイミングでデザインの評価、より正確に言えば、デザインの評価指標に向き合うタイミングがあると言えます。
たとえばこんな時…という事例を参考までに挙げてみました。
【デザインの前】
→デザイン活用に関する計画立案時
例1「採用セミナー向けパンフレットを作ろう→デザインが必要→セミナー参加経由の応募率アップ!」
例2「新商品を開発しよう→パッケージデザインが必要→売行きに加えて、新規取引開始数!」
【デザインの真っただ中】
→複数のデザイン案から基本ラインを選んだり、仕上がりに近いデザイン案をレビューする時
例1「A案、B案、C案と3つあるけど、B案はかっこいいけど取引先増という指標に叶うかな?」
例2「これが最後の確認タイミングだが、重要指標の年配層の通行者にアピール力あるよね?」
【デザインの後】
→デザインが何かのメディアに実装され、コミュニケーションが稼働し始めた後
例1「新商品の商談で、相手バイヤーの最初のコメントが“パッケージデザインが強いね”でした」
例2「“ポスターを見て”がアンケートの認知経路でこれまでより上位にラインクインしてます」
3:デザインの成果は定性と定量の両面で押さえる
どんなものでもそうですが、評価は定性・定量の両面から行うことがポイントになります。
デザインそのもの、デザインだけを評価することは非常に難しいというのが事実です。なぜならデザインはそれが乗るメディアの在り方・使い方も成果に関わり、たとえば新商品リリースにおける各種メディアのデザインとなると、商品面・営業面など多岐にわかる関係要素が関わってきます。
デザインのコンクールのようにデザインそのものを評価するのであれば別ですが、デザインの評価とビジネス・事業・経営としての評価は必ずしも一致するわけではありません。
新しいデザインを導入した商品・サービス・店舗・会社全体としての評価の中から、デザインの効果を見分けていく・・・ということがポイントとなります。
4:デザインの評価指標と成果を出すためのポイント
ではここから、具体的なデザインの評価指標についてご紹介していきましょう。
デザインの評価指標を考える時、まずは下記の枠組みから考えていきます。評価指標2項目と成果の作用領域2項目のマトリックスで押さえていくとよいでしょう。
◯評価指標
- 定量的なもの
- 定性的なもの
◯成果の作用領域
- 対外的なもの
- 社内的なもの
事前の計画時に「評価指標」=「このデザインで何の指標に影響を与えたいのか」を設定しておくことをおすすめしています。そうすることで、「見た目だけのデザイン」という最悪の事態に陥る危険性をかなり低減させることができ、デザイン開発の方向性もより適切化させることができます。
5:デザインの評価指標例
たとえばこんな時‥という事例をいくつか挙げてみます。1つのデザイン開発におけるデザイン指標が1つになるケースは少ないもので、複数あるデザイン指標を総合的に判断することが多いものです。
《事例1》商品パッケージ・デザインのリニューアル時
定量的な評価指標 | 定性的な評価指標 | |
対外的 | 新規導入店舗数 既存店での販売個数 新規店での販売個数 SNSコメント数 | バイヤーコメント バイヤーから次商品の相談 売場担当者コメント SNS等コメント内容 |
社内的 | 社員による購入数 | 担当者のモチベーション 次の取り組みみへの発言 |
《事例2》社内アイデア・コンクールのポスター
定量的な評価指標 | 定性的な評価指標 | |
対外的 | 社内制度PRとしての取材件数 | 採用への応募者の声 |
社内的 | ポスター掲示数 アイデアの応募数 社内コミニュケーション数 ・本件のslackグループ新設数 ・部・課を超えたグループ応募数 | 応募アイデアの質評価(審査員) 次回の開催に関する声 応募理由の分析 |
6:評価指標の見方・押さえ方
定量的な評価指標においては、評価時点の数値のみならず、試作導入前からの一定期間における傾向=トレンドで押さえることがポイントになります。
たとえば、既存商品のパッケージリニューアル版を9月に投入するならば、
・9月以前の傾向からみて9月以降の傾向はどうなっているか
・前年の月単位推移と比べて9月以降の動きはどうなのか
などを傾向=トレンドとして押さえてください。
またモノによっては1週間で傾向が見えてくるものも、半年かかるものもあります。特に初期時点では継続的に指標を押さえていくことが必要となります。
7:定量的な評価指標の例
◯商品・サービスに直接的に関わるデザインの場合
- 売上
- 顧客数
- 販売数・注文数
- 購入個数/人
- 顧客単価/人
- 新規取引先数
- 導入店舗総数
- 商談継続数
- 予約数
- SNSコメント数 など
◯その他のデザインの場合
- 設置数
- 問いあわせ数
- 寄せられた声の数(SNS含む)
- 検索数
- メディア取材数 など
8:定性的な評価指標の例
◯声
- 社内、取引先、関係者、顧客、配布先から寄せられた声
◯SNS
- ツイッター、Facebook、Instagramなどで言及された例
◯マスメディア
- 新聞、テレビ、ラジオ、WEBメディアなどでの掲載内容
9:対外的な評価指標の例
※定量的・定性的な評価指標以外で、
◯対象物を見ての導入相談など新しい取引・ビジネスが広がった
◯対象物を見てコラボレーションの相談が入った
◯対象物を見て別バージョンの依頼が入った
◯対象物を見て視察・取材の要望が入った
◯対象物を見て原料取引の売り込みが入った
10:社内的な評価指標の例
※定量的・定性的な評価指標以外で、
◯声をかけられることが増え、社員が喜んでいる
◯受賞や取材で会社や商品に誇りが持てるようになった
◯外部から評価されるようになり社員の自発性が高まった
◯入社希望者が増えた、内定辞退が減った
◯社内の活動が活発化した、アイデアが出るようになってきた